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特集:第6回近畿SST経験交流ワークショップ in 京都(2010.9.11・12)


 9月11日(土)・12日(日)の両日京都テルサにおいて、第6回近畿SST経験交流ワークショップおよびSST普及協会近畿支部総会が開催され、115名が参加した。SST経験交流ワークショップは、SSTに関する経験をお互いに分かち合うとともに、新しい知識を得てより良い支援を行うことを目的に支部ごとに毎年開催されている。
 初日の午前中は角谷慶子近畿支部長の挨拶に続いて、京都大学大学院研究科・精神医学教室教授村井俊哉先生に特別講演「社会脳研究の知見からの統合失調症の病態理解」をいただいた。
 総会の後、午後は中級研修会の分科会1「退院支援と訪問におけるSST」、分科会2「発達障害、知的障害を対象としたSST」、分科会3「就労支援に活かすSST」および初級研修会に分かれて、有意義な研修の時間をもつことができた。
 2日目は実践編の初級研修会が2つのグループに分かれて開催された。8名の講師陣による実技が中心の研修であり、これは普段の初級研修では実現困難な貴重な機会であった。
 また、今回のワークショップでは、初めての企画として初級研修会に家族と家族支援のSSTを始めようとする人たちを対象とした特別コースを企画した。

(長岡病院看護師 久保基治、土屋和彦)


特別講演によせて

角谷 慶子 

 従来人間の知性を発展させてきたのは道具の使用であるとされてきた。しかし10年ほど前から、人間の知性を発展させてきたのは、集団の中でうまく生き延びていく社会的能力ではないかという「社会脳仮説」が注目されるようになってきている。また、近年の画像診断技術の進歩により社会脳の研究は急速に進んでいる。 
 私が20年ほど前にUCLAに留学していた折、同大学精神医学教室のリバーマン教授やグリーン博士に認知機能とSSTについての指導を受けた。それ以来、私の中には「社会脳の知見はSSTの技法にニューロサイエンスの観点からの根拠を与えてくれるものではないか」という期待があった。そこで今回近畿SST経験交流ワークショップでは、わが国における社会脳研究の第一人者である京都大学大学院医学研究科精神医学教室村井俊哉教授に講演を依頼したところ、前日まで日本神経心理学会の副会長という大役を抱えておられたにもかかわらず、快く引き受けていただけるという幸運に恵まれた。
 脳の研究は単一ニューロンの細胞内分子機構から複雑で個別的な主観的・心理状態まで様々なレベルで行われている。我々が対象にしているのは巨視的レベルの脳の機能単位であり、神経画像をその研究方法としている。通常、情動・社会認知障害の神経基盤の研究には交通事故等による損傷脳研究が用いられ、社会的能力を十分に発揮するためには、脳の中でも扁桃体や腹内側前頭前皮質などが特に重要な領域であることが分かってきている。
 しかし明確な脳の損傷をもたない精神疾患の社会行動障害も情動・社会的認知に関わる神経ネットワークの異常として説明できるのだろうか?統合失調症のような局在脳損傷を持たない精神神経疾患で情動・社会認知障害の神経基盤の解明するためのアプローチには(1)同様の症状・行動変化を示すような、局在脳損傷例からの類推、(2)特定の脳領域との関連が知られている情動・社会的認知課題(ギャンブル課題、心の理論など)の成績からの類推、(3)機能的脳画像により、情動・社会認知課題施行中の賦活パターンを健常者と比較、(4)脳の局所的で微細な形態学的異常の検出と、情動・社会的認知課題成績の関連の解析がある。
 これらの手法を用いた研究により統合失調症における情動的表情認知の障害は、扁桃体病理と関連することが明らかになった。また社会状況場面における他者の感情を推測する能力の障害と前頭葉内側面の体積減少に相関が認められた。また利他性の心理と行動に関し、他者から褒めてもらうとドパミン系が賦活され、さらに自分だけではなく、ともに喜ぶ体験が人間にとっては一番の報酬となることが明らかになっている。
 SSTではグループでお互いの良いところを褒めるポジティブフィードバックが強調されること、援助者と被援助者が協働してともに楽しみながら行うことが重要視されるが、それはこれらの知見とも合致するといえよう。


中級分科会 1

退院支援と訪問におけるSST 
 
 講師は大阪府立精神医療センター岩田和彦先生(精神科医)、浅香山病院木下清美先生(PSW)。
 現在では入院を長期化させるのではなく、地域において治療やリハビリテーション活動を行うことが求められている。精神科リハビリテーションの3つの要素[(1)適切な環境の提供 (2)環境への適応の援助 (3)社会生活における技能の改善・再獲得]の中で、(3)を言い換えれば[生活を維持する力]を身に付けるためには、「SST退院準備プログラム」に参加することが有効であると述べられた。
 精神障害者の退院を促進し地域生活を安定したものにするためには訪問看護など訪問サービスが重要である。本人の生活の場を訪問することは、本人が抱える問題を理解するうえで大変役立つ。診察室や病院では理解できなかった、あるいは語られなかったことが、そこでは具体的に述べられ、理解を促す新たな手がかりが得られる。また、本人との信頼関係を深めるためにも訪問はとても有効である。このような訪問の利点を生かして、精神障害をもつ方の多様なニーズに対応した個人SST・家族も交えたSSTを行うことは訪問サービス実施のための基本的な援助技術として必要であるとの話があった。
 後半は、参加者から事例を挙げてケースワーク形式で進められた。参加者から、多くの問題点、質問や意見が出て、活発なディスカッションとなった。その後、「退院準備プラグラム」のDVDを見ながら模擬セッションが行われた。
 参加者の声として、「慢性期の長期入院患者の退院支援に向けて退院準備プログラムを実際に行っていきたいと思う」「退院準備プラグラム・模擬体験に参加してよかった。病棟で役立てることができればと思う」などさまざまな感想があった。

(長岡病院看護師 南山 沙織)


中級分科会 2

発達障害と知的障害のSST

 奈良教育大学特別支援教育研究センター岩坂英巳先生(精神科医)、同植村里香先生(臨床発達心理士)、同宮崎瑠理子先生(作業療法士)の3名の講師に、発達障害、知的障害の児童を対象としたSSTをテーマに全体講義と模擬セッションをお願いした。
 全体講義では「発達障害のSST」について概略説明後、奈良教育大学「土曜SSTくらぶ」のDVDによる紹介があった。
 奈良教育大学におけるSSTは、90分のセッションを学習タイム(50分)、遊びタイム(40分)に分け、前半の学習タイムで獲得したワザ(ソーシャルスキル)を後半の遊びタイムで楽しみながら、遊びの中で活用できる工夫がなされていた。
 今回の模擬セッションでは「誘う」と「怒りのコントロール/意見を言う」の模擬セッションを行い、児童のメンバー役として多くの参加者にもご協力いただいた。
 始めこそ、緊張している参加者もあったが、ウォーミングアップ後は笑顔が多く見られるようになり、発言も活発に聞かれるようになった。参加者の多くが受講後の感想で「楽しく、分かりやすい説明だった」と述べていた。
 また他には「ここでのSSTの特性は家族や学校の教師が共に申し送りし、般化(SSTで学んだことを実生活で自然とできるようになること)へのサポートが手厚い点だと感じた」や「子供の特徴を捉えて事前に席順を決めることは子供同士のぶつかりを軽減する効果があること、立ち位置の重要性や間のとり方について学んだ」などがあった。
 今回は発達障害、知的障害の児童を対象としたSSTであったが、セッションの構成や学習タイム前に実施するウォーミングアップを児童の覚醒レベルに応じて調節することなど、成人を対象としたSSTでも活用できることも多かった。
 これらのことを活用しながら、メンバーの生活に役立つSSTを楽しく、分かりやすく伝えられる工夫をしていきたい。

(長岡病院看護師 一圓 隆司)


中級分科会 3

就労支援に活かすSST

 分科会3では、就労支援をテーマに、宝塚三田病院吉田悦規先生(看護師・PSW)、にしなりウィング政広平先生(PSW)にお話いただいた。就労支援では、どうしても家族や支援者の意向で動いてしまいがちであるが、・自己選択・が重要となる。そのために、障害を事業所に伝えて就職するのか(オープン)、伝えずに就職するのか(クローズド)といったことについても、自分で判断・決定できるように、メリットやデメリットを整理して伝えることが重要な支援であると強調された。就労支援のSSTといっても、あいさつの練習のような基本的就労習慣に関するもの、面接の練習、定着支援に関するもの、とさまざまである。事前アンケート『仕事を始める前のチェックリスト』を実施して現在できること、これから頑張ることを自分でチェックするなど、SSTに対する動機づけを高めるテクニックについても教えていただいた。また、面接で病気について伝えるポイント(病名ではなく症状を伝え、働く意欲のあることを強調すること)や、仕事の指示を受ける際のポイントなど、実際にロールプレイを交えながら学んだ。
 16名の参加者は、精神障害を対象としている方、知的障害・発達障害を対象としている方、就労支援には携わったことがない方など、さまざまだったが、「明日すぐにでも使える実践的なSSTをたくさん教えてもらえてよかった」、「ウォーミングアップのアイデア、本人の希望を引き出しながらアセスメントをしていくテクニック等、すぐに自分のセッションに取り入れたい内容ばかりだった」など、具体的・実践的な講義内容がわかりやすかったという感想が多く、吉田先生の「全員にお土産を持って帰ってもらいたい」という言葉どおりの研修会になったと思う。

(長岡病院心理士 臼井 卓也)


初級研修会(一般コース)

 2日間、計10時間に及ぶ初級研修会では合計8名の講師陣に加え、帝京大学松田康裕先生(精神科医)にコリーダーとしてご指導いただいた。
 1日目はジャパンEAPシステムズ川端洋子先生(臨床心理士・PSW)等によるSSTの基本講義が行われた。その後、滋賀県立精神医療センター吉田隆先生(看護師)、五条山病院稲葉咲子先生(看護師)、和歌山県立こころの医療センター魚平隆弘先生(看護師)等によるSSTのロールプレイをみることで、参加者は実際のSSTを肌で感じることができた。
 2日目は1日目で得た内容を実践するための演習が中心であった。6、7人の小グループに分かれて、各参加者がリーダー・コリーダー体験をし、「SSTのリーダーをみているのと実際にやってみるのとは、全然違う」とSSTのやりがいや難しさを経験した。また、各グループにローテーションで講師が入り、それぞれの講師の特色をみることで、SSTといっても一つの決まりきった型ではないことを経験する機会に恵まれた。
 その後、日常生活で実際のやりとりを例にした個人SSTのロールプレイが行われ、SSTといっても小難しいものではなく、日常業務においても工夫次第で取り入れられるといった理解につながるものとなった。
 2日間に及ぶ濃密な内容ながら、参加者は疲れた様子もなく、「楽しいSSTを学ぶことができて良かった」と、SSTにとって重要である「参加者自身が楽しむという経験」ができ、充実した研修となった。

(長岡病院心理士 川崎 康)


初級研修会(家族支援コース)

 講師は南彦根クリニック上ノ山真佐子先生(臨床心理士・PSW)と梅花女子大学瀧本優子先生(PSW)にお願いした。
 講義では、SSTと心理教育の組み合わせによって病気や障害の当事者が抱える問題や困難への対処方法を家族が習得しうること、それが家族の問題解決能力の向上と再発リスクの低減をもたらすことを学んだ。
 演習では、「無駄遣いをなくすにはどうすれば良いか」「一人で留守番できるようになるにはどうすれば良いか」など当事者やその家族の身近な課題を挙げ、問題解決技法のやり方を実際に練習した。
 研修終了後、SSTを体験した専門職やご家族らから「難しいけれど、誰でもやってみることができる」「ひとりSSTを実践しながら、自身も娘も気楽にコミュニケーションを取って回復を待ちます」といった感想が聞かれた。
 今回の研修を受けて、当事者が地域で生活する時、ご家族が病気を理解、受容し、自らも支える力を身につけておくことの重要性に気づいた。「治療の同伴者」として当事者と程良い距離を保つことができずにいるご家族も多く、当事者と同様に孤立や悩みを抱えていることを感じた。
 家族の一員が初めて病気を患ったとき、不安と混乱の中で頼りにされるのは病院やクリニックである。当事者はもちろん、家族の支援もできる専門職が必要とされており、医療機関にも対処技法や社会資源の利用方法について学ぶ家族会、研修会があれば家族の不安軽減に大いに役立つものと考える。

(長岡病院精神保健福祉士 渡邊 真之)



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